10年勉強しても司法試験に受からなかった奴がその難しさを語る ~論文編②~
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こんにちは。
司法試験に失敗した僕が、その難しさを愚痴る記事の3回目です。
ひとまずこのシリーズは最終回としたいと思います。
今回は、前回に引き続いて論文の難しさについてです。
前回では、何が問題なのかわからないので書くことに困る、または書いてもずれた内容になってしまうということについて書きました。
今回は、書くことが分かっていてもやっぱり評価される答案にならないことがあるという難しさについて語っていきます。
こういうケースは新司法試験に多いので、これから司法試験を受けようと思っている人は参考になるかもしれません。
もちろん法律の知識や司法試験のことが不案内な一般人の方でもわかるような内容にしているので、司法試験の難しさに興味がある人は記事を覗いていってください。
1 最近の司法試験は書く内容がはっきりしている
前回の記事では、司法試験の論文では何を書いていいか迷うことが多いという話をしましたが、実はそれは昔の話。
最近の司法試験では書くべき内容について誘導があり、受験生が書く内容について迷うことはとても少なくなりました。
興味のある人は、最近の司法試験の問題を参照してみてください。
何を書くべきかについて先輩弁護士から指示されていたり、「~については論じなくてもよい」などの注意書きがあったりと、昔の司法試験と比べてかなり親切になっています。
つまり大半の受験生にとっては、とりあえず本文の誘導に従えば何となくそれらしい答案が書けてしまうんです。
2 みんな同じことを書くからこそ合格が難しい
書くことが分かりやすくなったといっても、司法試験に合格するのが簡単になったかというと実はそうでもありません。
書くべきテーマが明確になると、ずれたことを書いて脱落していく人が少なくなるということですから、かえって競争が激しくなるんです。
つまり事実の考察力や文章表現力が一層シビアに見られるということ。
3 事実の考察力とは?
ここで事実の考察力とはどういうことをさすのでしょう。
僕が受験時代に習ったことですが、一般の人にも参考になるかもしれないので、具体例を挙げて紹介したいと思います。
刑事訴訟法で「職務質問の際の有形力の行使が適法か?」という問題があるんですが、今回はそれについて考えてみます。
⑴ 例題で考える
この問題については法律上いろいろな議論があるのですが、ひとまず
必要性や緊急性を考慮した上で、具体的事情の下で相当と認められる程度なら許されるというのが判例の見解なので、この基準をもとに考えてみましょう。
では、以下の事例で巡査が甲の手首を掴んだ行為は適法でしょうか?
よろしければ、読者の皆さんも司法試験受験生になったつもりで考えてみてください。
甲は、午前4時10分ころ、路上でコンクリート製のごみ箱などに自車を衝突させる物損事故を起こした。
甲は、パトカーで事故現場に到着したA、Bの両巡査から、運転免許証の提示とアルコール保有量検査のための風船への呼気の吹き込みを求められたが、いずれも拒否したので、両巡査は甲を警察署へ任意同行し、午前4時10分ころ同署に到着した。
た。甲は、軽四輪自動車を運転して帰宅の途中に事故を起こしたもので、その際顔は赤くて酒のにおいが強く、身体がふらつき、言葉も乱暴で、外見上酒に酔っていることがうかがわれた。
甲は、呼気検査について再三説得されてもこれに応じず、午前5時30分ころ甲の父が両巡査の要請で来署して説得したものの聞き入れず、かえって反抗的態度に出たため、父は説得をあきらた。甲は「母が来れば警察の要求に従う」と返答したので、父は母を呼びに自宅へ戻った。
巡査たちは、なおも説得をしながら、甲の母の到着を待っていたが、午前6時ころになり、甲からマッチを貸してほしいといわれて断わったとき、彼が「マッチを取ってくる。」といいながら急に椅子から立ち上がって出入口の方へ小走りに行きかけたので、A巡査は、被告人が逃げ去るのではないかと思い、被告人の左斜め前に近寄り、「風船をやってからでいいではないか。」といって両手で甲の左手首を掴んだ。
⑵ 事実を適切に考察・評価
上記の事案では、多数の人が巡査の行為が適法と考えるでしょうが、問題はその理由です。
甲は、赤ら顔で酒のにおいを漂わせているので、飲酒運転をした嫌疑は十分にあります。飲酒運転に厳しくなった現在、たとえ物損事故でも見過ごすべきではありません。
しかも、巡査の行為も手首を掴む程度のソフトなものですから問題ないといえます。
・・と、ここまではおそらく多くの人が答えるでしょう。
ただ、飲酒運転ではもう一つ大事なポイントがあります。
今、こいつに風船をさせなければ、体内のアルコールが抜けてしまう
ということです。
これは飲酒運転という犯罪の性質を考察・評価してはじめて出てくる理由です。
この事情を指摘することで、本件には手首を掴んで甲をその場に留めるほどの緊急性があるといえるため、論述に説得力が出てきます。
つまり司法試験では、闇雲に理由を述べるのではなく、事実を適切に考察・評価して結論につなげる力が試されるわけです。
⑶ 事実を取捨選択する力
事実を考察・評価をいっても、何でもかんでも細かい事情を拾えばいいというものではありません。
僕の場合、無駄な事情にこだわるのが弱点でした。
古畑任三郎きどりで細かい事情をあげつらって考察してたんですが、そのポイントがよくずれていたんです。
たとえば、今回の事案で甲をやっつけるために使えそうな事情は沢山あります。
- 父親の説得には応じなかったのに「母親なら応じる」といっているのはおかしい。単なる時間稼ぎではないか
- 軽自動車を使われたら遠くに逃げられてしまうのではないか
などなど、書こうと思えばいくらでも書けますね。
でも、これは単なる憶測なんです。
たとえば両親の説得の場合、上記の考えでは「甲が酒気がさめるまで時間稼ぎをしている」という推測のもとに、事実を都合のいいように解釈しているだけです。甲は母親になら心を開く関係だったのかもしれませんよ?
こういう論述は説得力が薄い場合が多い。
甲の怪しい態度を非難したところで、「じゃあ、なんで巡査の行為が相当といえるのか」という問いに直接答えていないからです。
つまり事実を考察・評価する際には、その事実が結論を導くために適切かという取捨選択をしなくてはならないんですね。
ここが司法試験の難しいところなんです(出来る人にとっては面白いでしょうけど)。
3 文章表現力とは?
じつは国語的な文章力という意味では、司法試験において大したレベルは要求されていません。
正直、僕よりも読みにくい(と自分で思っている)文章を書く人でも司法試験に沢山受かっていますしw
ただ、司法試験で求められる文章力は、ほぼ2の事実の考察・評価力と重なるんです。
事実を分析する力が弱いと、どんなに(一般に)文章力があるとされる人間でも説得力のある答案は書けません。事実の分析が弱いと結論を導くための道筋が見えづらく、結局わかりづらい文章になってしまうからです。
なので司法試験で文章力がないといわれた人は、文章の書き方講座よりも、判例などで事実の分析の仕方を学んだ方が有益な場合が多いかもしれません。
これは一般にも言えることです。
一見整っている文章に見えるけど、イマイチ説得力がないとき、根拠となる事実が適切でない場合があります。そういう事実をつかうと、結論を導くために無理してひねくれた考察・評価をしなくてはならず、よい文章にならないということです。
5 さいごに
以上、10年たっても司法試験に受からなかった人間の考察記事でした。
司法試験受験生だけでなく、一般人の皆様にとっても事案分析力や論述力を養う上ヒントになる点があれば幸いです。
それでは、また。