10年勉強しても司法試験に受からなかった奴がその難しさを語る ~論文編①~
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こんにちは。
前回に引き続き司法試験の難しさについて語っていきます。
bigwestern.hatenablog.com
前回は、知識習得の大変さについての記事でしたが、今回は論文試験についてです。
司法試験の論文では、試験会場で六法全書を参照できます。
つまり条文の知識が分からないから書けないということは、ほぼありません(ばあいによっては基本知識を知らないと条文すら引けない、ということはありますけど)。
となると、あとは自分の考えを書くだけなんですが・・ここですぐ合格できる人間といつまで経っても不合格の人間がシビアに選別されるんですね。
知識を問われているわけでもないのになぜ合格答案が書けないのか?
以下でそのあたりの事情を一般人でも分かりやすく説明していきたいと思います。
1 何が聞かれているのかわからない
司法試験では「以下の事例について法律上の問題点を述べなさい」みたいな問題がよく出題されます。
ところが、いざ問題文を見てみると、何が問題なのかわからないというケースがあります。聞かれているポイントが見つかりづらいんですね
これは、特に旧試験のときによくあるパターンです。
例えば、ちょっと古い問題ですが、一般人でもわかりやすい問題として平成15年度の憲法第1問の小問2を見てみましょう。
第1問
以下の場合に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。
2 女性のみに入学を認める公立高等学校の受験を希望する者が,男性であることを理由として願書の受理を拒否された場合
平たく言うと「男が女子高に入れないのは違憲じゃないか!」という話です。
普通の人なら「んな、ばかな。こんなクレーマーのイチャモンに付きあってられっか」と思いたくなるかもしれません。
でも司法試験受験生だって、試験会場でこの問題を見て面をくらったはずなんで、似たようなもんです。
聞かれていること自体は簡単なので、読者の皆さんも、もし興味があるなら憲法の条文をググって、どのような人権侵害が問題なのか考えてみてください。
さて、最初に答えをいってしまうと、この問題では憲法14条の「法の下の平等」が問題になります。つまり、女子高は男子を差別しているから違憲ではないか、という問題です。
2 法律の知識があるから答えが分かるとは限らない
では、この事例で女子高という制度が憲法14条後段違反かどうか考えてみましょう。
(参照条文)
第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
法律を勉強してないからわからない?
いえいえ、条文にも法律の教科書にも女子高のことなんて書いてないですよ。
とりあえず法律の専門用語を抜きにして、この問題を考えてみましょう。
常識的にみて、無条件に女子高を違憲と考える人はほぼいないと思います。
では、何故そう思うのか?本問の男性に「女子高は違憲ではない」というためにはどうすればいいのか?
ここで
なんで女子高という制度が認められているの?
ということを自分の力で考えなくてはならないんです。
試験時間を考えると、制限時間はせいぜい5分くらいですかね。
よろしければ、みなさん考えてみてください。
・・みなさん、思いつきましたか?
ちなみに求められている答えは、
「女性の社会的地位向上や社会進出を果たすため、女性に特化した特別な教育が必要だから。」
みたいな感じらしいです(論文なので厳密な正解はありませんが)。
そうするとここで初めて法律の議論が出てきます。
あ、女性進出の手助けということは弱者救済、つまり福祉国家の実現のため憲法25条の趣旨により許される区別じゃないかな?
みたいな感じです。
あとは憲法25条の趣旨に従って男性に反論して「違憲にはならない」と書けば、それなりの答案になるはずです。
あるいは「今のご時世、女性にそんな特別な教育は必要ないのではないか」という疑問を呈してもいいかもしれません(もっとも、女子高を違憲にするような過激な結論は試験対策としてはどうかと思いますが・・)。
ここで何が言いたいのかというと、憲法25条を勉強しているから論文の答えが分かるのではなくて、女子高の存在意義を自分で考えたから憲法25条が「出てきた」のです。
つまり、法律の知識があるから答えが書けるのではなくて、自分で問題文から何が問題なのかを考えることが大前提で、法律の知識はそれを解決すべき道具にすぎないということです。
法律の教科書を暗記しても司法試験が受からないという意味が、何となくイメージできましたか?
3 ズレたことを書くと大失点
ちなみにこの問題で学問の自由(憲法23条)の侵害を考えた人がいるかもしれません。
その人、試験当時の僕と同じですね。
でも残念ながらそれはアウト。
この問題で学問の自由について大展開した人は、軒並み低評価をくらってます。
それはなぜでしょう?
この問題で男性が「学問ができなくて困った」という事情がないからです。
例えば、男性が入学しようとしている女子高には特別な学科があり、それについて勉強したいなら本問の女子高に入るしかない、という事情があるなら学問の自由について語ってもいいでしょう。
しかし本問では、男性という理由で入学拒否をくらったという、学問以前の事務的処遇について問題になっているわけです。
学校という響きだけで「勉強」⇒「学問の自由」と考えた人は、ピントが外れた言葉に着目して話を作ってしまったことになります(繰り返しますが、僕と同じですw)
このようにピントが外れた話題に着目してしまうと、書くことがなくなってしまうんですよ。
もし学問の自由を問題にすると、この男性に対する反論は「ほかの学校があるから問題ない」くらいしか思いつきません。これでは憲法の話が出てきませんよね。
しかも本問特有の問題である女子高の話ができなくなってしまうので、出題の趣旨に沿った回答ができなくなるわけです。
つまり、事情を的確に捉えないと全く頓珍漢なことを一生懸命論じることになってしまうということです。
これが司法試験論文の恐ろしいところ。受験生にとっては、試験中に大得意になって論じていた内容が全くあさっての方向だった、ということが間々ありうるわけですよ。
4 続きは次回へ
以上、司法試験の論文の難しさについて、その一部を語ってみました。
論文についてはまだ難しさのポイントがあるので、続きは次回にしたいと思います。
とにかく今回の内容のポイントは
事実をしっかり把握して、聞かれたことに答えよう
ということ。
実はこれ、どの世界でも大事なことなんですよね。
先日、都立高校受験の作文の書き方について、僕自身が同じようなことを書きましたもの。
国語指導の世界では「筆者の主張を捉えなさい」と他人に説教しておきながら、司法試験受験生の立場になると、その言葉がブーメランになって自分に返ってきてしまったということです。いやはやお恥ずかしい・・。
僕みたいになりたくなかったら、事情を正確に捉える訓練をしておきましょう。
そのためにも国語の学習は必要だと思いますよ。
それでは、また。