「私『は』皿を割りました」と「私『が』皿を割りました」の区別をスッキリ理解する方法
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[こんにちは。
前回、国語の文法は、暗記が多くてつまらないと感じる人が多いという話をしました。
この記事では、文法学習を弁護すべく、言葉を適切なパーツに分けて理解するために文法が役に立つ、と自説を述べました。
とはいえ、国語の文法が無味乾燥な勉強に思えてしまうのは確かです。
特に助詞に関していうと、国語辞典でも明確な説明がないので、ちゃんと理解できないまま「なんとなく」使っているケースが多いのではないでしょうか。
たとえば、タイトルにあるように
私「は」皿を割りました
私「が」皿を割りました
の区別がよくわからないまま「なんとなく」使い分けている人も少なくないはず。
「は」は係助詞で「が」は格助詞だということくらいは分かるけど、だからどう違うのかまでは分からない・・といったところでしょうか。。
かくいう僕も法学部専攻だったせいもあり、日本語を本腰入れて勉強する機会がなかったので、恥ずかしながら同じような状況でしたね。
この「は」と「が」の区別については様々な見解が提唱されています。
僕はその中でも、大野晋先生の著書「日本語練習帳」にある説明が、かなりわかりやすいと感じました。
今回は大野先生の説明を軸に、僕なりの「は」と「が」の区別についてのざっくりした見解をまとめたいと思います。
1 大野先生の見解
大野先生は「は」と「が」の役割について以下のように整理しています。
〇 「は」の役割
ア 問題を設定してその下に答えが来ると予約する
例)僕は国語を勉強している。
私(という人間が何をしているのかというと:問題設定)国語を勉強している(問題の答え)。つまり「は」とは、上に問題設定、下にその答えがあるという図式をしめすものということです。
イ 対比
例)私は、国語は嫌いです。
ほかに好きな教科はある可能性はあるけど、「それと対比して」国語が嫌いであることを示すために「は」を使うパターンです。
ウ 限度
例)17時までには帰ってきてください。
(本当はもう少し早くしてほしいけど)17時が「限度」だよ、というニュアンスを出すために「は」が使われています。
エ 再問題化
例)その映画を観てはみたがつまらなかった。
「その映画を見た」という事実があって、それを再び取り出して「見たんだけど・・」と再評価するというニュアンスを出すパターンです。
〇 「が」の役割
ア 名詞と名詞をくっつける
例)僕が探していた本
「僕」と「本」をくっつける働きをするのが「が」の本来の役割であると大野先生は述べています。英語で関係代名詞の文を訳すときに「が」を使うことをイメージするとわかりやすいかもしれません。
The rumor that he heard at the office is wrong.
(彼がオフィスで聞いた噂は間違いだ)
ここでは「彼」という名詞が「噂」という名詞と接着して、「噂」の内容を説明しているといえます。
イ 現象文をつくる
例)花が咲いていた
アと比べると新しい用法のようです。
ここでは 咲いている花をみて、その現象を発見したことを示します。
したがって「花」は新事実の対象であることを示します。
2 もうちょっとコンパクトな区別の仕方
大野先生の分類はあくまで一例で、厳密には「は」と「が」にはさらに用法があるようです。学者によっては20以上に分類する人もいるらしい。
しかしこれほど細かく分類すると、区別の際にやや使い勝手が悪いですね。
「は」と「が」の違いをもう少しコンパクトにいうとどうなるのでしょう。
これについては大野先生の本や、他の参考資料を総合するに、以下のような表現になると思います。
「は」
(予め持っている事柄から)テーマを切り分けて、それについての答えをいう
【問答形式なので新しい情報は「は」の下にある】
「が」
(予め持っていない)新しい事実の描写
【新しい事実について述べるので、新しい情報は「が」の上にある】
まず、「は」についてみると、大野先生の区別でいうア(問題設定+答えの予約)のはたらきが軸にあって、そこから派生してイ~エが生まれたといえます(大野先生自身もそのように述べています)。
例として「僕は国語を勉強している」という文を、もう少し細かく見てみましょう。
「は」を使うことによって、「これから僕のことを話すよ」と、(予め持っている話題の中から)「僕」というテーマを切り出して設定しているのです。あくまで「は」の上は問題提起だから、その答え(新しいこと)は、「は」の下にきます。
このテーマを切り出すという作業について、なんのために切り出したのかに着目して分類したのが大野先生の分類でいうイ~エなのです。
切り出すことで他と対比したい場合にはイ、限度を表したいのであればウ、再び問題にしたいのであればエ、といった具合に分かれるわけです。
これに対して「が」の場合、新しいことは「が」の上にきます。
「僕が国語を勉強している。」という文の場合、勉強しているという行為は既に分かっているものであり、それが誰なのかという新しい事実を「が」の上に示しているのです。
このように、話題のアンサーになる「新しいこと」が、「は」と「が」では上下逆になる、というのが、一番コンパクトな説明なのではないでしょうか。
3 タイトルの例文の検討
このように考えると、
「私『は』皿を割りました」
「私『が』皿を割りました」
の区別もつくと思います。
前者は、「私」というテーマについて「皿を割った」という答えを述べる言い方です。
これは、私が何をしていたのかということに焦点をあてる言い方ですね。
これに対して後者は、「私」が答えにあたる言い方です。
つまり、皿を割った事実を前提にして、その主体は誰かということに焦点を当てる言い方なんですね。
4 さいごに
以上、「は」と「が」の区別でした。
ちょっと細かいテーマでしたが、このように考えると、日ごろ使っている表現の区別が明確になり、ちょっと文法を勉強してよかったと思えるのではないでしょうか。
それでは、また。