こくごな生活

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国語講師経験者が教える古文単語の覚え方~丸暗記しても役に立たない! 言葉の「根っこ」を掴むこと~

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こんにちは。

 

今回は古典の話です。

国語を教えていると、古典が嫌いという人を多くみかけます。僕は高校時代から古典が嫌いではなかったのですが、嫌いな人との違いって何なんだろう、と考えたことがあります。

 

その答えは様々でしょうが、僕なりの答えとしては、

現代語と古典とのつながりを意識しているかどうかの違い

だと思います。

 

これだけでは抽象的でわかりづらいと思いますので、今回は受験生が苦手としている古文単語の覚え方を例にして説明してみましょう。

 

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1 古文単語を「丸暗記」してないか?

受験生ならば、古文単語を覚える際に、単語帳を持っているかと思います。かくいう僕も受験生時代に単語帳を持っていました。

 

お勧めの単語帳を聞かれたりしたこともありますが、個人的には何でもいいと思います。他の教科の勉強もあるでしょうから、その負担にならないように必要最小限のものをまとめたライトなものでいいと思います。

 

それでもあえて具体的な単語帳を挙げるとすれば、マドンナ古文シリーズでしょうか。あいかわらずこのシリーズは人気がありますね。僕が子供のころから続いている伝統的参考書ですよ。

マドンナ古文単語230 パワーアップ版 (大学受験超基礎シリーズ)

マドンナ古文単語230 パワーアップ版 (大学受験超基礎シリーズ)

 

 

僕の大学受験時代は、和田純一先生に教わっていたので、その誼で同著の単語帳もここで紹介しておきます(笑)。

 

二刀流古文単語634

二刀流古文単語634

 

 

さて、ここで問題にしたいのは単語帳の選び方ではなくて、そこに掲載されている単語の覚え方、つまり言葉へのアプローチの仕方です。

 

古文単語が苦手な人は、往々にして外国語を覚えるように、やみくもに丸暗記しようとするのです。

もちろん丸暗記でもやらないよりはマシでしょうが、これだと知識が受験などで使える形で頭に残りません。

 

受験生ならば経験していると思いますが、問題を解いている最中は、精神が極限状態にあるので、本当に感覚的に理解している知識以外は使えないんですよ

丸暗記は定期試験などの「その場しのぎ」の対策としては有用かもしれませんが、大学受験などの長期的な試験対策においてはほとんど役に立ちません。もうすこし本質的な勉強をしなくてはなりません。

 

2 古文単語の本質的な勉強ってなに?

本質的な勉強法を考える際に、大学受験における古文単語の一般的な出題傾向を見てみましょう。

 

特に受験古文の場合、以下のような単語の意味を聞かれることが多いです。

A 一つの言葉で様々な意味を持つ

B 現代語とは異なる意味を持つ

もし古文単語帳をお持ちなら、ちょっと確かめてください。おそらく「重要語」とされている単語は、大体この2点に集約されると思います。

 

ここでなぜこのような言葉の意味を問うのかを考えてみてください。

もちろん複雑な意味を持つ単語の方が問題が作りやすいからというのもありますが、より本質的には、AやBのような言葉の意味を問うことで、その言葉の成り立ちや意味の移り変わりを捉える力を試すことができるのです

 

つまり受験生としては、やみくもに言葉の意味を暗記するのではなく、どうしてこの言葉がこういう意味になったのかということを意識して、その単語を理解してほしいのです。これがここでいう古文単語の本質的な勉強です。

 

3 その言葉の「根っこ」を感覚的につかむ

ちょっと仰々しい書き方になってしまったので、難しいことを要求しているように思われたかもしれませんが、そんなことはありません。

 

要はその言葉を感覚的に納得するということです。イメージとしては言葉の根っこを「ぐいっ」とつかむ感じ。

そのための方法としては以下のようなものが挙げられます。

 

⑴ 大まかな感覚でまず理解する

古文単語帳を見るとき、いきなり意味を文字で覚えようとしてはいけません。まずその言葉のイメージを「感じ取って」ください。

 

たとえば受験で頻出の「あさまし」という単語をみてみましょう。

 

 あさまし

① 驚くばかりだ。意外だ。

② 情けない。興ざめだ。

③ 呆れるほどひどい。

④ 見苦しい。みっともない。

 (出典:Weblio古文辞書)

 

意味が4つもあり受験生からすると面倒くさいですね。

しかも現代語の「浅ましい」とは異なり、①のように必ずしもマイナスの意味ではないものも含まれています。まさに上記のA,Bの条件にあてはまるので、受験では頻出単語なわけです。

 

さて、この言葉の根っこのイメージは何でしょうか?

あっけにとられて「うへぇ~」となる感覚です。

まずこのイメージを掴んで下さい。具体的な意味はこのイメージから派生させていくのです。

 

たとえばカレーライスを10人前平らげる人を見て、「うへぇ~」と感じたとしましょう。この感覚が「あさまし」です。

 

カレーライスを10人前食べること自体は、必ずしも悪い意味ではありませんね。

だから、あさましも本来悪い意味だけではないのです。

 

しかし、人々が「うへぇ~」と感じるのは、一般常識から外れたものを見たときであることが多いです。そして常識外れのものを見るとき、マイナスのイメージが付きまとうことが多いですよね。

 

たとえば不登校小学生がユーチューバ―になったのを見たとしましょう。

このユーチューバ―が悪いことをしているわけではありません。しかし一般常識からすると、ちょっと受け入れられないといわんばかりに「うへぇ~」と違和感を持つ人も少なくないのではないでしょうか。

 

この違和感がエスカレートすると、次第に相手や対象を軽蔑する意味になってきます。

そしてそのマイナスの感覚を使う場面に応じて例示的に表現・列挙したのが上記の②~④なのです。つまり②~④は、常識はずれのものをみて「うへぇ~」となる感覚がマイナス表現に変化したという経緯を理解すれば、なにも字面通りに丸暗記しなくてもいいわけです。

 

たとえばセンター試験などで、傍線部の「あさまし」の意味に最も近いものはどれか、という問題が出たとき、暗記した意味と照らし合わせるのではなく、

「この状況ではどの『うへぇ~』の意味が相応しいのかな」

傍線部付近の文脈と「あさまし」の根っこの感覚を照らし合わせると、すんなり正解できることが多いです。

 

⑵ 漢字を上手く利用する

単語を感覚的にイメージするためには、漢字を利用するのが有益です。

たとえば、これも受験で頻出単語である「よし」をみてみましょう。

 

よし

① 理由

② 口実、いいわけ

③ 手段、方法、てだて

④ 事情、いきさつ

⑤ 趣旨

⑥ 縁、ゆかり

⑦ 情緒、風情

⑧ ふり、素振り

 8つも意味があってこれを丸暗記しようと思ったらウンザリします。

そこで、「よし」を漢字変換して意味を整理しましょう

 

「よし」を漢字にすると「由」です。

ジャイアンツの高橋「由」伸あたりをイメージしてもらうといいかもしれません。

 

ここで由という文字をググってみてください

「理由」という言葉から分かるように、ものごとのきっかけだったり、その背後にあるものを表すものです。「因」と同じ意味なんですね。この基本となる意味をイメージしながら①~⑧の意味を理解していくのです。

 

まず、①と②の意味は、まさに「理由」という言葉から派生した意味なので、漢字からそのままイメージできるでしょう。

また論理的な理由に限らず、「よし」ということばを「広く物事のきっかけや背後にあるもの」と捉えると、物事の手段や背景なども含まれます。③~⑥の訳語はそのようなグループに属するものです。

 

そして、そのような物事の事情や背景があるものは、何となく意味ありげなので「情緒・風情」があるような雰囲気をもたらすものです。そしてそれをしぐさで表すと「ふり」とか「素振り」になるんでしょう。こうして⑦や⑧の意味に派生していくわけです。

 

このように、「由」という漢字の意味を媒介にして、「物事のきっかけになるものや背後にあるもの」というざっくりしたイメージをもって、そこから具体的な訳語にあてはめていくのです。

こうすると、バラバラに見えている訳語が感覚的につながる快感があるので、古文単語を覚えることが苦ではなくなっていきます。

 

4 まとめ

このように古文単語は

・まずその言葉の根っこの部分を感覚的につかむ

・具体的な訳語はその感覚から派生させて覚える

という順序を辿ると、上手くハラに落とし込むことができます。

 

ことばとは感覚を表すための道具です。そしてその指し示す感覚は時代によって段々ずれていきます。

たとえば「ヤバい」ということばは、いまでは否定の意味だけでなく肯定の意味でも使われますよね。上で挙げた「あさまし」も似たようなもんです。根っことなる感情の指し示す対象がずれていって、その意味が変化しただけなんです。

 

そんなずれの移り変わりを味わいながら古文単語を勉強していけば、単なるつまらない暗記作業ではなくなるはずです。

そして何より、一度根っことなる感覚を掴んでしまった言葉は忘れにくいので、試験でも役に立つはずです。少なくとも僕はそのようにして古典の点数を上げた一人です。

 

この考えをヒントに、実のある古典単語ができる人が少しでも増えることを願っています。

それでは、また。

 

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