こくごな生活

国語や法律のソフトな考察を中心とした日常雑記録

学習塾に「授業は必要ない」のか

今回は◟国語の話題から少し離れて学習塾一般の話をします。

 

最近(というか結構前から)授業をしない学習塾が話題になっています。私も数年前に電車の中刷り広告でその存在を知り、今は首都圏を中心に急速に勢力を伸ばしている印象があります。

 

この塾は大学入試の学習塾なので、高校入試を話題の中心とするこのブログではそれほど関係ないかもしれませんが、学習塾のあるべき姿を考えるには興味深いテーマですので、ここで取り上げてみましょう。

 

〇授業の必要性

「授業は必要ない」といわれて、長年学習塾で授業をしてきた私にとってはかなり挑戦的なセリフに感じたかと思われるかもしれませんが、実はそうでもありません。従前から、Z会赤ペン先生に代表される通信教育は、授業なしに子供の学力を伸ばす教育ツールとして定着していました。その意味では、子供の学習に授業が絶対に必要とまでは私自身も思っていないのです。

 

しかし、それでも私が授業にこだわるのは理由が2つあります。

 

①ライバルのレベルを肌で実感できる

まず、環境面として、授業を通じて一緒に学習に励む仲間をリアルに接する機会があるということです。

 

私が授業をしていたときには、生徒間で必ず質疑応答をしていました。いわゆるソクラテス・メソッドといわれるやつです(最近は恥ずかしがって口をきいてくれない生徒さんが多いのですが・・)。そうすると大体このくらいのレベルだったらみんなが答えられる、といった「相場」のようなものが見えてくるんですね。また、実際に授業で答えなかったとしても、子供同士の会話で「これは簡単だった」「あの問題は難しかったよね」みたいな内容が話題になると思います。

 

このように、一緒に学習する生徒のレベルをリアルに実感することは大事です。たった一人で勉強しているとこの辺の感覚を掴むのがかなり難しい。例えば、問題集を解いているとき、みんなが解けるような問題(つまり落してはいけないような問題)を間違えたとき、一人で勉強しているときは「あ~間違えちゃった」で済みますが、授業でみんなが答えられているのを知るとかなり恥ずかしく感じます。すると、その恥を通して、簡単な問題を軽視してはいけないのだ、という教訓を肌で実感できるわけです。

 

②わかっているとはどういうことかを追体験できる

次に学習面についてです。私が授業をするときは(他の指導者の方も同じだと思いますが)、解答までのプロセスが分かるように解説するよう心がけています。もちろん問題集の解説も同様だと思いますが、問題集の場合、スペースの都合で説明を端折らなくてはならないことも多く、十分な説明ができないんですね。その点、授業ならば、生徒の反応を見て説明を微調整できるので、かなり柔軟な解説ができます。

 

その説明を聞くと、生徒は「この問題がわかること」とはどういうことなのかをリアルに感じ取ることができます。ちょうどスポーツでいうと、プロスポーツ選手などの自分より上手な選手のプレーを見て、「できる」ことへのイメージを膨らませ、モチベーションへつなげていきますよね。勉強もそれと同じです。「できている」人間の思考に日常的に触れることで、「できる」というイメージを維持できます。これは自分で学習するうえで大きなモチベーションになるわけです。

 

〇それでも授業で合格できるというのは間違い!

じゃあやっぱり学習塾では授業がないとダメなんじゃないか、というかというとそうではありません。授業は上記のようなメリットはありますが、それでも学力を伸ばすのは生徒自身であり、授業はそのツールにすぎません

 

言い方を変えると、授業を受けただけで学力が伸びた気になってはダメです。その授業で何を学んだのか、そしてそれが実際の試験でどう役にたつのか、を常に意識しなくては、授業の受けっぱなしになってしまうのです。例えば、授業で問題の解説を聞いたけど、まだ自分の頭の中では整理できていない、このままでは実際の試験では使えないから、類似の問題を解いて理解を定着させていこう、というような自発的な勉強がなければ、本当の意味での学力向上は難しいのです。

 

「授業は必要ない」と主張する学習塾も、おそらく上記のような授業の受けっぱなしに対する警告をしたかったのでしょう。しかし、このような塾に入っても、生徒自身に自発的に勉強する姿勢がなければ、結局、与えられた参考書を「解きっぱなし」で終わってしまいます。要は、どんな勉強法を採ったとしても、最終的には本人の勉強の姿勢の問題となってしまうんですね。

 

その意味で、私は自分の授業で生徒を合格に導いた、などと微塵にも思ったことはありません。努力したのは受験生なのですから。

 

E判定からの合格!という宣伝文句について

最後に、学習塾でよくある宣伝文句についてコメントをしておきましょう。

よくE判定からの有名校合格!とか、偏差値30から70代に急成長!みたいなフレーズが飛び交っていますが、学習塾関係にいた人間からすると、これはそんなに騒ぐようなことではないと思っています(宣伝上使いたくなるフレーズであることは理解できますけど)。

 

たとえば、偏差値30クラスの生徒の場合、頭が悪いというより、そもそも勉強する習慣がなかった、あるいは興味がなかったということが多いのです。逆に言えば、こういう子は、一度勉強するきっかけ(モチベーションといってもいいでしょう)さえつかめれば、飛躍的に偏差値が伸びる傾向にあります。

 

子供が勉強する気になるきっかけは、突発的・感情的なものです。たとえば、尊敬する数学の先生に会えたから飛躍的に数学の成績が伸びた、などという話はよくきく話です。逆にいうと、なかなか法則化できるものではありません。

 

そのように考えると、この塾の勉強法ならE判定から合格できる!といった宣伝文句もマユツバモノといえるでしょう。子供の学力・成績を向上させるというのは、形式的な勉強方法で解決できる問題ではないからです。もっとも、単純に解決できる問題ではないからこそ、この業界はやりがいがあるともいえるのですがね。