「関る」という表記は正しいのか?作文採点者泣かせの「送り仮名」の判断について
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こんにちは。
作文の添削は、いってみれば人様の文章にケチをつける仕事ですから、間違った指摘をしてはいけないという重責との戦いでもあります。
もし不適切な添削をすると、場合によっては半永久的に相手に対して誤った知識を植え付けることにもなりかねないので、許されることではありません。
とはいえ、恥ずかしながら僕には添削の失敗が何度かあります。
最も多い失敗が送り仮名についてです。送り仮名は分かりやすい法則がないため、ときに採点者の方が理解を勘違いしているケースもあるのです。
今回は、そんな僕の失敗に対する懺悔と皆様への情報共有もかねて、送り仮名の難しさについて書いていこうと思います。
1 「関る」という送り仮名を✖にすべきか?
例えば、生徒の作文などで「人と関らずに生きていくのは難しい。」という文をよく見かけます(下線は当ブログによる)。
「関らず」という表記を見て、皆さんどう思いますか?
おそらく「関わらず」と理解している人が多数だと思います。
僕もこの表記は誤りだと思ったのですが、念のためPC互換機能を使ってみると、「関る」という表記が出てくるじゃありませんか。
一般的に、ここに搭載されている表記は、国語的に許容されているものです。
例えば「表」の訓読みも、一般的には「表す」と表記するのが正式ですが、文化庁の内閣告示によると「表わす」と送ることが許容されていますので、互換機能にもその内容が反映されているのです。
そして僕は、今回の「関らず」についても、「表わす」と同様に許容されているものだろうと思い込み、この答案を正解としたわけです。
ところが後日、この「関らず」は誤りであるとご指摘を受けました。
根拠は、前述した文化庁の内閣告示第3号(太字及び下線は当ブログによる)。
内閣告示第三号
昭和四十八年内閣告示第二号の一部を次のように改正する。
平成二十二年十一月三十日内閣総理大臣 菅 直人
本文通則1の例外(3)中の「脅かす(おびやかす) 食らう」を「脅かす(おびやかす) 関わる 食らう」に改め、同文通則3の例外(1)中の「幸せ 互い」を「幸せ 全て 互い」に改め、同文付表の語の1中の「差し支える 五月晴れ 立ち退く」を「差し支える 立ち退く」に、「差し支える(差支える) 五月晴れ(五月晴) 立ち退く(立退く)」を「差し支える(差支える) 立ち退く(立退く)」に改める。
「かかわる」については、今まで公式見解が出ていませんでした。
確かに一般的には「関わる」という表記が正しいとされています。しかし、従前の内閣告示によれば、本文通則1により、送る部分は活用する部分となっています。これによれば「かかわる」はラ行五段活用ですので、「る」のみ送ればよいことになり、「関る」が正しいことになります。
広辞苑などの有力辞書もこれに則って、「関る」という語も掲載していました。PCの互換機能もこれにしたがっていたのでしょう。
ところが平成22年の内閣告示でこの原則がひっくり返りました。
「関る」は例外の適用により間違いとなり、「関わる」が正しい表記と宣言されてしまったのです。政府の公式見解ですから問答無用。PCの知識にすがった僕は、まんまと間違った添削をすることになってしまいました。
2 送り仮名の正誤の確かめ方
このように送り仮名については、時代ごとの変遷もあり、場合によっては辞書やPCもあてにならないこともあります。
例えば、先ほどの「表わす」の例にもあったように、送り仮名には公式に認められた許容表記もあり、一見間違いと思われる送り仮名でも✖にしてはいけないものもあります。「行なう」という送り仮名も、辞書によれば正式ではありませんが、政府見解としては許容です。
(オンライン漢字辞典)
行:【訓読み】おこな(う)
(内閣告示)
このように送り仮名の正誤判断は複雑怪奇ですが、迷ったときには、基本的に文化庁の内閣告示を参照するのが確実です。僕も添削の際に迷ったときにはこれを参照するように心掛けています。
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/okurikana/index.html
とはいえ、この告示は、いくつも通則がある上にそれぞれの原則に例外や許容があり、国語慣れをしていない人が見たら頭がくらくらしてきます。
僕も一般人よりは国語に携わっている人間ですが、締め切りに追われて何百通も添削をしなくてはならないのときに、すべての送り仮名について告示内容を参照するのは、はっきり言って難しい。
となれば、送り仮名の正誤判定は、以下のようにするのが現実的でしょう。
① まずはPCの互換機能などでその送り仮名が許容されていないか確かめてみる
② それでも違和感があれば内閣告示を補足的に参照する
僕の場合、②の手間を惜しんでしまったのが失敗だったようです。
今回の例はやや細かい例ですが、一般人にとって大事なのは、辞書の送り仮名表記を絶対視せず、「許容や例外もあるんだ」という意識をもって日ごろから送り仮名に向き合うことだと思います。
人の送り仮名の使い方バカにしていたら、実はその表記が正しかった、なんてことになったら恥をかきますからね。
3 学習するときは正式表記で覚えよう
ただ、いくら政府が許容しているとはいえ、辞書にない表記を使用するのは誤解のもとです。やはり日ごろ漢字を学習・使用するときには、辞書に書かれている一般的な表記を使うようにしたいものです。
もし日ごろ「行なう」と書いていたら、人によっては漢字を知らない奴と思われるかもしれませんし、下手したらテストで誤って減点されてしまうかもしれません。
みすみすそんなリスクを背負うのは得策ではないですからね。
もちろん僕としては、そういう表記を誤って減点しないように気をつけなくてはなりませんが、お互いにこんな神経を使わせる送り仮名の存在は、本当に厄介だと思います。
と、愚痴を言いつつ今回はこれまでにしておきます。
それでは、また。