こくごな生活

国語講師だったひとのつぶやき集

野球の応援歌に「お前」という言葉を使ってはいけないのか~二人称代名詞を国語的に考える~

こんにちは。

 

最近ツイッターを覗いてみるとこんな内容が。

 つまり

選手を「お前」と呼ぶな

ということ。

 

ちなみに、これがサウスポーの問題となる歌詞部分です。

みなぎる闘志を奮い立て お前が打たなきゃ誰が打つ 今 勝利を掴め

 

僕は野球小僧で、ファンだった埼玉西武ライオンズの選手別応援歌をすべて記憶していた過去があります。そんな応援歌に親しんだ過去を持つ自分にとっては、「今さら」すぎる指摘です。

 

まあ指摘の内容は分からんではないです。応援歌は子供も歌うんですからね。

ブルペンの前で「○○さ~ん、サインくださ~い」と恭しく選手に接していた子供が、応援になると「お前」呼ばわりに豹変するというのは、ある意味奇怪なこと。

そんな不都合を回避する意味でも、「お前」という言葉は避けるべきという意見が出たんでしょう。

 

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たしかに「お前」という言葉が出てくる応援歌の頻度は、昔に比べると減っているような気がしますね。

ちなみに僕のファンであるライオンズの主要選手に使われる応援歌には、「お前」という言葉は出てきません。

wakajishi-seibulions.com

 

一方、昔の阪神タイガースの応援歌は「お前」が結構多かったのを覚えています。

例えば、和田、中野、オマリーなど。古すぎるかな?

 

これは時代と地域差によるものもあるのかもしれません。

大阪の人が関東の人に親しみを込めたつもりで「お前」といったら不機嫌になって困惑したというケースもあるようですし。

news.infoseek.co.jp

 

しかし、そもそも時代がすすむにつれて二人称代名詞って、見下す意味あいが強くなる傾向があるんですよ。「お前」だって従前は神仏や貴人の前で相手を敬うための言葉だったんですからね。この言葉が目下の人間を表すようになったのは明治以降とされています。

gogen-allguide.com

 

これと似たような傾向にあるのは「貴様」ですかね。

漢字だけ見るととても相手を敬った表現のように思えますが、いま上司などの目上の人に「貴様」なんて使える猛者はいないでしょう。

 

「お前」がなぜこのような傾向になったのか、理由は定かではありません。

僕なりの推測としては。

貴人を名前で呼ぶのは失礼なので汎用性のある言葉が必要だった

    ↓

・実際に名前を呼ばなくてもいい便利なことばとして下賤なものにも利用される

    ↓

・次第にぞんざいな使われ方になり、次第に相手を見下す意味になる

ということでしょうか。

 

「お前」に限らず、二人称代名詞はあまりいい意味で使われないことが多いです。これは上記のぞんざいなイメージの他に、実際の名前を端折ることで相手と距離感を作る印象を与えるからかもしれません。

「あなた」とか「きみ」ということばも、使いようによっては相手に違和感を与えますからね。

 

さて、そんなこんなを考えると、応援歌で二人称代名詞を使うのはそもそも難しいです。「あなた」だと上品すぎて気持ち悪いし、「きみ」でもちょっと見下した感じがしてしまいます。

応援歌は「かっとばせ!」とか「走れ!」とか命令形を使わざるを得ないので、二人称代名詞を使うなら、結局は「お前」という言葉に落ち着いてしまうんですよ。

 

その「お前」が納得できないなら、やっぱり実際の名前を使ったほうが無難でしょうね。そうしたら今度は「選手を呼び捨てにするとはケシカラン!」という批判が出てきたりして。

 

以上、野球の応援歌と二人称代名詞のちょっとした国語的考察でした。

それでは、また。